究極の選択��( ̄口 ̄)

村の鎮守の神様も放っておいては蜘蛛の巣だらけ。すゞやか風舞う境内もいつの間にやら草ぼうぼう。というわけで町内会の神社掃除に馳せ参じたのだが、周りは農家ばかりなので朝が早い。先行した納骨堂掃除とセットで5時半起きというハードさ。それでも溌剌とした村のおじさんおばさんたちの中、夏休みの生活に慣れきってしまった僕は回らぬ頭を振りながらイネ科植物を黙々と駆逐していた。

社務所の方の雰囲気が変なのに気づいたのはしばらく経ってからだった。なんだかみんな遠巻きにしてぼそぼそと話している。「問診」なんて言葉が耳に入る。誰か具合でも悪いのかな。と立ちかけたところに隣家のおじさんがやってきた。「倒れとる奴のおるけん、医者の卵、ちょいと見ちゃらんか」というのでついていくと……

( ̄□ ̄;)!!

作業員風の若い男が自分のゲロにまみれて横になっておるではないですか!凄惨な、なんて優雅で高尚な表現など似合わない、とにかく絵にもならない汚い光景だった。かぐわしい香りまで鼻を擽り、思わずもらいゲロをかましてしまいそうだ。しかしおじさんたちは彼を僕に見てほしいのみならず、そこはかとなく応急処置など期待している風だった。

仕方ないので恐る恐る近づき、肩をゆすってみた。ぐにゃぐにゃと揺れる。死後硬直は来てないらしい。生きているか、もしくは死にたてだ。 まてよm(..)m

これで呼吸をしていないとすると……





もしかして人工呼吸しろってことになるんですかな?��( ̄口 ̄)





はああーやだよー見ず知らずの汚い男でしかもゲロまみれだしこの男がここに倒れてることに関して俺何の責任もないし職務でもないしちょっとまってよー人工呼吸用の簡易マスクもないしなぁアンビューバッグならいくらでも押すんやけどこの不健康そうな奴にマウス・トゥ・マウスなんかうはー絶対なんか病気うつされるーいやそれ以前にゲロがゲロがゲロが(以下略)

などという思考が2秒ほど脳内でスパークした後、そうだ、BSLだ、ABCだ、救急部での実習を思い出すぞ、と冷静になった。そう、まだ人工呼吸しなきゃならんと決まったわけではない。Aは気道。横向いてるから気道確保はOK。Bで呼吸確認。あまり近づきたくはないが……うわっ鼻からもゲロたれてるぅ(><;)ん?鼻から垂れてるゲロが……規則的に揺れている!よく見ると胸郭の呼吸運動もたしかにある!


*
・( ̄∀ ̄)・:*:


八幡宮の神様、ありがとうございます(´∀`)




ああよかった、最悪の事態は免れた(^o^)v-~~~あとは救急車ば呼びましょう。
「人工呼吸とかせんでんよかとか」
いや、だって、息ばしよらっしゃるけん。
「そりゃーそうたい。んなら救急車ば呼ぼい」
呼びましょう呼びましょう。

救急車が来るまでの間、男の周りに転がっている物品(ほとんどゴミ)の中に身元を示すものがないか見ていると、弁当のガラと一緒に薬の包装が大量に出てきた。痛み止めが数十錠分、薬品の種類は不明だが「寝る前」と書かれた袋がこれまた数十包……



自殺者か(|||_|||)



自殺だとすると「寝る前」と書かれた袋は睡眠薬である公算が強い。しかし、近年の睡眠薬はたくさん飲んでも死ねないものばかりになっている。大概は吐いてしまっているようだからあとは病院に運んで胃洗浄と点滴でもしていればじきに目も覚めることだろう。

しかし、この神社は普段は滅多に人影がなく、男の倒れている位置では白昼の太陽を遮るものは何もない。発見されなければ薬では死ななくても熱射病で逝っていた可能性はある。八幡宮の神様が、この男まだ死ぬには早い、と手をお差し伸べになったのかも。


救急車が男を乗せて去ったあと、残されたゲロを水で流しながら、軽い自己嫌悪に陥った。俺はさっき、死後硬直が起こってない→やばい(人工呼吸をしなければならない)という思考をしたなぁ、これって医者になる者としてダメなんじゃ……そもそも、もっと積極的に手当とかできないと話にならん、医師として機動力不足だ、etc. いろんな考えが巡って、もう一度寝ようとしてもうまく眠れないので缶ビールをあけた。するといろんな考えの中からこんな奴が立ち上がってきて、僕は眠りに落ちた。






まだ学生だからいいのだ:*:・( ̄∀ ̄)・:*: